May 31, 2015

Chan & Goldthorpeによる社会階層と文化研究

GoldthorpeとTak Wing Chan (University of Warwick, 執筆当時はGoldthorpeとともにOxford)の社会階層と文化消費に関する一連のプロジェクト(著作としては、以下を参照.Chan, T. W. (Ed.). (2010). Social status and cultural consumption. Cambridge University Press.
)に関して、断片的にまとめていたメモを一つの記事にしておきます(まだ断片的ですが、誤字脱字を直しておきました)。一度、社会階層と文化の関係については、論考めいたものを書いておきたいです。


Chan, T. W., and J. H. Goldthorpe. 2005. “The Social Stratification of Theatre, Dance and Cinema Attendance.” Cultural Trends 14(3):193–212.

 この論文で筆者たちは、2001年にイングランド全国を対象とした(Arts council Englandにかわって)ONSが行った調査の二次分析を通じて、イギリスにおける文化と階級・地位(及び教育)の関係について議論している。特に、この論文ではタイトルの通り映画やダンスの消費を対象とする。筆者らは、ブルデューらが主張する階級と文化的嗜好が一致すると考えるHomology thesis及び、文化的嗜好と消費がどんな社会的な基礎を持たないようになるというIndividualization thesis、そしてあらゆる文化を嗜好する層と単独の(ポピュラー文化)を嗜好する層に分化するというunivore-omnivore thesisの三つを紹介する。

 分析に入る前に、筆者らはウェーバーの理論に依拠して、経済的な不平等から構成される階級と間主観的な評価から構成される地位の二つを概念として採用する。分析を通じて、文化はブルデューが主張したような階級に左右されることはなく、地位との関連が見られることが分かった。地位以外にも、教育が文化的嗜好との関連を持つ。潜在クラス分析(latent class analysis)の結果、対象となった文化消費は二つのlatent class に分かれることが分かり、これはPetersonらが主張したunivore-omnivore thesisに対応する。具体的には、地位が高い人ほど文化的に雑食(omnivore)になる。univoreは高級文化ではなくポピュラー文化を嗜好する。階級の効果やlatent classの数などで音楽とは若干結果が異なっているが、基本的には上記の理論を支持する結果となっている。

Chan, T. W., and J. H. Goldthorpe. 2006. “Social Stratification and Cultural Consumption: Music in England.” European Sociological Review 23(1):1–19.

 この論文では、イギリスにおける文化消費の事例として音楽を対象に分析を試みている。分析の結果は彼らの一連の研究と同じく、omnivore thesisを支持するものであるが、結論部では特にhomogolgy thesisを否定するものとして、文化的エリートが潜在クラス分析から見出されなかったこと、およびunivoreの文化志向を持っているものの、社会的地位が高かったことが述べられている。

Chan, T. W., and J. H. Goldthorpe. 2007c. “Social Stratification and Cultural Consumption: the Visual Arts in England.” Poetics 35(2-3):168–90.

 (金太郎飴のような気もしないが)、この論文ではイングランドにおける文化消費(今回は芸術消費)と社会階層の関係を検討している。階級や地位の区別などは省略。潜在クラス分析の結果、芸術消費に関しては文化的雑食、非消費、その中間であるpaucivoresの三つが抽出された。このようにunivoreが見つからなかったことは、芸術消費が量的な分布をしていることを示唆する。分析の結果、やはりomnivoreはサービスクラスを中心とする層が、そして非消費は低階層の階級が占めていることが分かる。そして、多変量解析の結果、階級ではなく地位が文化志向の違いを説明することが分かった。ただし、omnivoresとpaucivoresの比較では学歴のみが有意となっている。また、4歳以下の子どもを持つことはinactiveとなる確率を高める。

Chan, T. W., and J. H. Goldthorpe. 2007d. “The Social Stratification of Cultural Consumption: Some Policy Implications of a Research Project.” Cultural Trends 16(4):373–84.

 一連の文化的嗜好と階級・地位の関係の調査を終えて、著者の二人がこの研究の政策的なimplicationについて議論している。(ちなみに、なぜこの調査を二次分析したか、その意義を序盤で書いているのがお手本なのでぜひ詠んでほしい。)論文は三つのパートに分かれている。はじめに、調査の結果文化はエリート対大衆というこれまで考えられてきた構図ではなくunivore-omnivore の対立だということ、次に、階級と地位は分析からは一致したランクの分布を示されず、階級が上層でも多くのunivoreが見られることが分かったことが報告される。最後に、文化的嗜好の分断は階級ではなく地位、及び教育程度によって左右されることが述べられる。最後に、こうした分析結果から二つの知見が紹介される。第一に、文化的嗜好以外にも、家の所有や休日の過ごし方など、より物質的なライフスタイルと地位の関連が考えられることが述べられる。第二に、仮に文化的嗜好を全般的に上昇させようと政府が考えるのあれば、地位との関連が考慮されるべきではないか、及び、地位レベルでの格差を本当に取り除けるのかを問うている。




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